『Team Geek』はGeek以外にも読む価値のある書籍

読了したのは7月末なのに暑さにかまけて、滞っていました。2ヶ月程前に『Team Geek』読了しましたが、再読しているので読後の第一印象ではないです。

本書は200ページ程度であることと1ページにびっしりと書いているわけではないので、分量が多くなく、文体がフランク(くだけた)ものなので、かなり気楽に読めます。ただ『ITエンジニアの ゼロから始める英語勉強法 英語落ちこぼれでもペラペラになれる!』の時にも感じたのですが、フランクな文体とはいえ、書いている内容は非常に重厚なものです。その重厚なものをフランクな文体のため、言い方が悪いかもしれませんが、これが面白いと感じてしまうのです。

内容は『Team Geek』という名前から類推されるコーディングや開発のテクニックといった分野には立ち入らず、チームやプロジェクトといった分野に関わるエッセイ集になっています。“Geek(技術オタク)”という言葉から最も遠いと感じる人もいるかもしれませんが、『人間』にフォーカスがあたっています。

本書ではソフトウェア開発というものはチームプレイであると定義しています。ユーザが自分一人だけのソフトウェアは別として、世間に広く使われるようなものというのは孤高の天才と皆が勝手にイメージする存在がたった一人で作り上げるものではなく、複数の人間で作り上げるものです。そのため、一人一人の技術(技量)とは別に、チームプレイとしてどう一人一人の能力を発揮するか?という視点がないとうまくまわりませんよ。ということが書いてあります。所謂1+1を2より高いものにする分野です。個人的な印象としては“Geek”と言われる人の多くはこういった“チームプレイ”ということを嫌う傾向1があるように感じていたので、本書の内容は眼から鱗でした。

さて、チームプレイとしてどう一人一人の能力を発揮するか?の基本原理として、本書では謙虚(Humility)、尊敬(Respect)、信頼(Trust)の3つを上げています。それぞれの頭文字を集めてHRTと書き、ハートと読むと定義されています。この原理に基づいて色々なテーマでHRTがどう関わっていくのか語られていくのが本書の構成になっています。テーマは例えば、チームの文化や良いリーダーと悪いリーダーの違い、有害な人にどう対処するか等があげられています。そして、各テーマについてベストプラクティスや失敗事例が経験談として紹介されています。著者はGoogleでエンジニアをされていますが、それまで色々な会社も渡り歩いています。加えて、Subversionにも携われており、OSSコミュニティや社内のエンジニアリングチームの双方からのベストプラクティスや失敗事例であり、それぞれ非常に面白く書いてあります。

本書で学べることは端的に言うと『集団(社内やコミュニティ)の中で成功するための技術』です。

上記の通り、本書の提示する価値観は謙虚(Humility)、尊敬(Respect)、信頼(Trust)のHRTが大事なんですよということです。自分が最もデキる(=優秀)としてもそういった態度を取るべきではないと説いています。しかし、なぜHRTが大事なのか?を紐解くと、それが『善(=道徳的に正しい事、多くの人が是認するようなもの)』であるからとか『正義(=倫理、合理性、法律、自然法、宗教、公正ないし衡平にもとづく道徳的な正しさ)』といった価値観から導き出されるのではなく、自分自身にとって最も良い環境であるためには/チームを良い状態にするためといった、『集団(社内やコミュニティ)の中で成功する』という目的を達成するためになっています。自分が最もデキる(=優秀)としてもそういった態度を取らず、HRTな態度、謙虚であり、他人を尊敬し、信頼する態度を取る方が『自分自身にとって』有益であり、合理的(論理的)だということです。

穿った書き方をすると『HRTの実践を目指すのはそれが善であるとか、正義であるとかではなく、またそうである必要性もない。本性が邪悪な人間だとしても、HRTを実践しているのであれば、問題ない』という風にも読み取れるものです。

ただ、エンジニア(Geek)はえてして、本書のアンチパターンのように自分が一番デキるし頭もいいから相手を見下したり、小馬鹿にする態度を取り勝ちなものです。本書の重要なところは皆が尊敬する Google の Geek が『HRTの実践を目指すのはそれが善であるとか、正義であるとかではなく、HRTが集団(社内やコミュニティ)の中で成功するために合理的だからである』と伝えているところだと思います。

エンジニア(Geek)は合理的ですから、合理的に考えてHRTを実践するのがベストであると判断すれば迷う事無くそれを実践することでしょう。それが実現されれば、様々な集団(社内やコミュニティ)から良い結果が世の中に齎されることになるのでしょうね。

最後にこの様な良書と出会う機会を作ってくれた著者のBrian W. Fitzpatrickさん、Ben Collins-Sussmanさん、そして素晴らしい翻訳をしてくれた角 征典さん、発行の株式会社オライリー・ジャパンさん、ありがとうございました。


  1. よく生産性の文脈でソフトウェア開発とは労働集約型ではなく、知識集約型なので、無能を何人集めても意味がなく、少数の優秀な人間にのみやらせるべきであるという話